ETV特集「カズオ・イシグロをさがして」メモ

 あー、正直、カズオ・イシグロだけでよかった。女優とかタレントとかが「私とカズオ・イシグロ」を語るのが長すぎるし、興味がないしなあ。なぜか福岡伸一がインタビューに行くのだが、福岡伸一のお説より、ちょっとでも長くイシグロの話を聞けたほうがいいだろうに。。めったにテレビとかに出ないというなら特に。
 カズオ・イシグロは5歳まで日本にいたので日本には特別なノスタルジーを抱いていたらしく、頭の中でユートピアみたいな日本ができあがっていたとのこと。ところが大人になって実際に日本に来てみると「あらゆる意味で最も暮らしにくい国」だとわかって、頭の中の日本は自分の記憶が捏造(?)したものだと知ったのだそうです。それもあって国籍をイギリスに変更したよう。そのへんもっと詳しく聞きたかったのに、そのあたりはカットされたもよう。。。福岡伸一のお説や女優さんの自分語りよりそっちのほうがずっと興味あるのにねえ。もったいない。ETV特集って無駄に情緒路線に走るところがあり時々ついていけない(数年前の猫とホームレスの特集(「ひとりと一匹たち」)はその路線でも超名作でしたけど)。
 面白かったのは子供の頃のカズオ・イシグロの写真で、おぼっちゃんヘアーにネクタイなんかして、まるで「おぼっちゃまくん」。あの写真見てから、今のおっさんのカズオ・イシグロを見ても「おぼっちゃまくん」にしか見えなくなった。お父さんは海洋学者だったそうなので、ほんとにお坊ちゃんだったんでしょうね。そのお父さんは、日本で気象庁に勤めていた頃、「気象庁の歌」みたいなのを作曲したというくらい音楽には造詣が深く、ピアノが上手だったとのこと。自然科学者で芸術にも造詣が深い、というのは最高の家庭環境だと私は思います。また、情緒的で湿り気があって、その上ものすごく緻密に周到に組み上げられているカズオ・イシグロの文学の培地としてはぴったりですね。まさにこの家庭環境(と資質)にしてこの人ありという感じで。カズオ・イシグロも若い頃はミュージシャン志望で、ボブ・ディランが好きだったとのこと。
 カズオ・イシグロにとって子供時代は「バブルの中で守られていた幸福な時代、大人たちによって現実から遮断され守られていた時代」だったそうで、いつか帰るユートピアとしての日本の風景とともに、格別なノスタルジーをお持ちのようだった。なるほどそのへんがいまいちイシグロブンガクに共感できない部分なんだなとすごく納得した。私にとっては子供時代は、守ってくれる大人が誰もおらず、むき出しで傷つきやすく、早く大人になってここから抜け出したいといつもいつも思っていた時代で、ノスタルジーもくそもない。「私を離さないで」で一番印象深かったのは荒涼としたラストシーンで、施設でのこまごまとした風景の部分は(そこが読みどころなのだろうけど)すっとばして読んでたもんね。完成度がすごいのでどんな人が読んでも楽しめる小説なのだけれど。むしろ一番ひっかかるのはやっぱりそのSF設定で、つねに一抹の「これでいいのか?」という疑問を持ちつつ読んでしまうという。。。もしかして、アイデア一発の短編小説ぐらいのほうがよかったのかも、とも思ったりして。
 日本人のイシグロはイギリスに渡り、異質な東洋人の子供としてうまく生きるために、常に周囲の注目を集めて華やかに振舞う必要があったと語っていた(録画してないのでうろ覚え)。例えば日本でならどうなのかな? 外国人の子供が。。。「あらゆる意味で最も暮らしにくい国」の意味するところは深いですよ〜。
(追記) NHKオンデマンドで見ることができるらしい。210円。受信料を取って税金もしこたま使って、さらに金を取るという。税金使ってんだから、市民のために無料視聴できるようにするのが筋じゃない? 受信料払わない人が多いから? こういう姿勢だから払いたくなくなる人が多いのでは。語学講座のテキストにも同じことがいえる。テキストの収益を番組制作費に当ててるっていうなら別だけどねえ。