『素粒子』ミシェル・ウエルベック

 うーん…。面白いのかな?これは。野崎歓による訳者あとがきのアツさから、「文学的事件」?だったことは察せられるんですが…。現代人の孤独と幸福の不可能性が描かれてるといいながら、作中人物は最終的には男にとって都合のいい女の出現によって現世的に幸せになってるし、その女がまた都合よく死んでくれて(合計3人、恋人の女が自殺したのには苦笑した)それによって男はまた苦悩できるという次第で…。しかも「妊娠小説」でもあるし。

 作者はニューエイジカウンターカルチャーによほど煮え湯を飲まされたのか、ルサンチマンたらたらに、えんえんとその世界の描写が続く部分は、ちょっと読むのがしんどかった。でも3部に分かれた小説の、第1部(主に少年時代の話)はとても面白かったけど。

 フランス的な小説ではない、と訳者あとがきには書かれていたけど、こういう人が出てくるというのはフランスの土壌ならではなのではないかしら。まあ、読んでてイヤーな気分になる本ではあるけど、思想としては嫌いじゃないです。

 それと、どーでもいいことですが、本作には主人公が二人いて、一人は悲しみを背負った天才科学者、もう一人はろくでなしでモテない変態男。このどちらもが作者の分身のようなのですが、悲しき天才科学者のほうが、ミシェルという、作者と同じ名前をつけられてるんですよね…。逆ならまだ可愛げがあると思うんですけど。