NHKスペシャル「無縁社会」はひどい

 ワーキングプアに次いで今度はNHKは無縁死という言葉を流行らせるつもりだろうか。ワーキングプア特集の時も、上流階級(NHK社員とか)が勝手に考えて決めつけた、わかりやすくて都合のいい貧乏人でしかないのに違和感があったけど、今回はもっとひどかった。ただ情緒的に訴えて、取材される高齢者が「そりゃ寂しいですよ」とか言って泣くのを強調し、老人のひとり暮らしを寂しくて悲しくて悲惨なものとしてしか描かない。番組ラストで、孤独な老人が保育園の少女に「家族」になってもらって救われた、というようなエピソードをもってくるのには怒りバクハツしそうになった。高齢者を何じゃと思っとるんや一体。「無縁死から浮かび上がってきたのは、安心して老いることができない社会、安心して死ぬことさえできない社会の姿でした」って、安心して老いられないのは家族がいないからじゃないだろうに。
 唯一これは役に立つ情報だと思ったのは、一人暮らしの人が自分の死後のしまつ(葬儀や住まいの整理etc)を任せることができるNPOが人気だという話。私もこういうのにお願いしたい、と思った人がいっぱいいると思うな。これとて、家族のいない寂しい老人の話として紹介していたわけだけど、そうじゃなくて、一人暮らしの高齢者がふえるのはもう事実なのだから、そういう人たちに何ができるかを冷静に取材したほうがよかったのに。浅はかな情緒に訴える浅はかな番組づくり。今までに見たNスペの中でも最低。どんどん質が低下するNスペ。これからずっとこの路線でいくのかな。
 だいたい、さも寂しい死に方として「孤独死」とか世間ではいうけれど、自分の部屋とかでひとりで倒れて死ぬのと、病院でいっぱい管を繋がれて針を刺されて機械につながれ尿道に管を突っ込まれ、家族だけじゃなく看護婦や医者がよってたかって(中には嫌いな人間もいるかもしれないのに)自分にのしかかって、心臓マッサージと称して胸を強打されたり(老人はこれで肋骨を何本も折るらしい)大騒ぎされて死ぬのと、どっちがいいかは微妙ですよ。身近な人が病院で死ぬのを見た人は、これは嫌だなあと思う人が多いはず。「自死という生き方」の須原一秀も確かそんなことを言っていたし。誰にも看取られずに死んだからというだけで「孤独死」とか「寂しい死に方」とか言うのはどうかと思うよほんと。