直木賞受賞作

 人間の暗部をえぐった問題作、しかも近親相姦もの、と聞いて、「私の男」を読んでみました。ちょいあざといタイトルだなあと思いつつ。感想は……直木賞芥川賞も、もうやめたほうがいいと思う(ついでにオリンピックもノーベル賞も)。出版業界の退廃を感じるよ。

 週刊朝日の書評で斎藤美奈子がこの本のことを「こんなの書いちゃいました。てへ。という感じ。この人の書いたものはみんなそう」と評していた。また、直木賞の選評のうち林真理子渡辺淳一のものを引用していて、特に林真理子は本当に鋭いなあと思ったのだ。

 渡辺淳一「もしこれを幻想かファンタジーとするなら、そのような書き方をするべきだが、この作者の安易な文章では到底、表現できるとは思えない。/淳悟と花とのからみのシーンは熱く妖しいが、見方によっては、少女コミックに登場する近親相姦を思わせるところもある」

 林真理子「私はこの作品をどうしても好きになれなかった。/作者がおそらく意図的に読者に与えようとしている嫌悪感が私の場合ストレートに効いたということであろう。/主人公の女性にも父親にもまるで心を寄せることが出来ない。/私には“わたし”と“私の男”が、禁断の快楽をわかち合う神話のような二人、とはどうしても思えず、ただの薄汚ない結婚詐欺師の父娘にしか思えない」

 うーん、林真理子はえらいなあ。「薄汚い結婚詐欺師の父娘」の物語なのだと思って読むと、もうそうとしか読めなかったもんね。

 ちなみに浅田次郎は絶賛。

 何でも、作者は前年度に直木賞の候補になった折、自作に対してではないが、人間の暗黒部を描けなれれば〜、みたいな選評?を聞いて、よーし書いてやる、と思って書いたらしいです。