典雅(グレースフル)な三毛

 ここ数年、正月には寺田寅彦の猫エッセイを読んでいる(何となく正月らしい気がして)。手元にあるのは「ねずみと猫」と「子猫」。他にも飼い猫2匹が死んだ時のことを書いた、涙なしでは読めない短いエッセイが確かあったけど、題名は忘れた(青空文庫で検索してみると、「備忘録」の中の「猫の死」という項だった。便利な時代になったもんです)。
 こうして見ると、猫エッセイに限ったものかもしれないけど、死についてよく触れられている気がする。「子猫」は死産の描写があったりで、読んでいて猫好きにはつらい部分もあるけど「ねずみと猫」はとても楽しくうきうきしていて、猫に馴染みのない人がはじめて猫を飼った時の思いが生き生きと伝わってきて、素晴らしい文章だと思う。でもよく読んだらこっちにも愛らしい子ねずみを麻ひもで絞殺するさまが具体的に描写されており、やっぱり死の観察には余念がないのだなあと思う。冷静な文章なので見えにくいけど、寺田寅彦にはかなり感傷的なところがあるのかもしれない。猫が死んで即興でいくつも歌を作っているくらいだし。まあ、文学者としては当然か。
青空文庫『ねずみと猫』
ラストの詩的な情景が泣ける。