中島みゆきの紫綬褒章

 中島みゆきほどこういうものが似合う人はいないと思うのは、中島みゆきは「真の保守」だと前から思っていたからだ。デビュー曲の『アザミ嬢のララバイ』の母性、いかにも音楽の教科書に載りそうな『時代』。どう考えても二十歳そこそこの若い女が書くには老成しすぎている。中高年のおっさんや老人がしみじみ涙するような歌にしか思えない。私は今でこそ『時代』は名曲だと思っているけど、長い間、他の中島みゆきの歌に比べて特にいい曲だとは思えなかった。なんか、説教臭いし。
 そのあと長い間、中島みゆきは恋の歌を歌い続けてきた。あれだって考えてみれば相当古典的な「女の恨み節」だった。歌世界としてはほとんど演歌。♪風の中のす〜ばる〜♪のようなオヤジ応援歌路線は、思えば『時代』の頃からあったので、むしろ原型に戻っているともいえる。
 中島みゆきはテレビにほとんど出ないが、長い間郵便局の広告にだけは出ていた。歌番組には出ないのに何で年賀状の広告に出るのか謎だった。そしてNHKの紅白。国がやってる(やってた)やつばっかりじゃないかー。まさに「国民的歌手」。今は松田聖子と一緒に化粧品の広告にも出てたっけかな。
 中島みゆきにはインテリ中高年のファンが多いが、これはラジオの深夜DJの影響も大きいと思われる。受験勉強をしながら聞いていたせいだ、という証言もある。棚から本マグロ、という寒いジョークにかつての深夜DJの馥郁たる香りを感じた人は多いのではないか。
 ところで私の大好きな話に坂本龍一の思い出話がある。確か村上龍との対談で語っていたか、村上龍が坂本の話として語っていたか記憶はおぼろなのだが。昔、坂本龍一中島みゆきのレコーディングに参加したことがあり、そこで中島みゆきがレコーディングしながら泣き出したのを見てたまげて逃げ帰った(ってことはないだろうが、ほとんど逃げ帰るほどびっくりして恐ろしい思いをした)という話。村上龍はそれに対して、そうだろうなあ、坂本さんは音楽をきちんと構築できるもの、されるものと思っているから、それを土足でぶち壊すような中島みゆきには耐えられないだろうなあ、というようなことを語っていたのだった。ほんとに大好き、この話。ラジカルは真の保守にこそ宿るのである。